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MessageIntroduction
あなたが今、靴に対してフィッティングの不満を感じるとしたら、それはなぜでしょうか?ほとんどの既製靴は、幅(E、2Eなど)が固定され、長さのみでサイズが展開されているに過ぎません(日本では、24.5、25.0など5mmピッチ)。当然それは、統計的に標準とされる範囲に限定されています。一方、人の体格や顔立ちに個人差があるように、足の形も驚くほど多様で変化に富んでいます。足には、24.5といったサイズなどなく、5mm刻みで長くなったり短くなったりするわけでもありません。足は長さと幅以外にも、形状や肉付き、柔軟性など様々な特徴からなり、それぞれが組み合わさって形成されています。結果、既製靴のサイズの範囲内では、受容できる足の形は限定的とならざるを得ず、フィッティングへの不満となって顕在化してくるのです。あなたが今、既製靴のフィッティングに不満があるとしたら、それは当然のことと言え、満足できているとしたら、幸運なことと言えます。
靴は体を支え、歩くという動作を日々繰り返す「機能的かつ身体的な道具」と言えます。たとえば、同じ身に着けるスーツなどは、体に多少フィットしていなくても着続けることは可能でしょう。しかし、フィッティングに不具合のある靴では、歩くたびに不快なストレスを強いられ、ひどい場合、足を痛めてしまうことにもなりかねません。人は車に乗らなくても生活はできますが、歩くことをせずにはいられません。靴が日常の道具として快適であると言うことは極めて重要なことです。また、接客に携わる人などは、まず相手の足元をみると言われるほど、靴はその履き手の人となりを表します。靴はファッションアイテムでありながら、足を保護し、路面で磨耗され、歩行のたびに日々酷使される道具です。そんな道具だからこそ、時を経た靴が見せる表情は、履き手の人生が刻み込まれるとともに、履き手の人となりを映し出すのではないでしょうか。靴はまさに「履き手を物語る雄弁さがある」のでしょう。
よく頂く質問に「いい靴とはどのようなものか?」というものがあります。この答えは人により様々かと思います。それは、どのような靴を履きたいか、靴に何を求めるかが人により異なるからに他なりません。私たちが考える「いい靴とは」、簡単な言葉で表現すると、「ついつい履いてしまう靴」、「ずっと履き続けていきたい靴」です。具体的には以下のようなことであると考えます。ブランドや価格ではなく、いかに足に合い、歩きやすいか、すなわち「足にフィットしていること」。もう一つは、自分のライフスタイルや価値観に見合っていること、すなわち「気持ちにフィットしていること」です。私たちがつくりたい靴もまさに「足と気持ちにフィットした靴」。ビスポーク(オーダーメイド)はそのための手段なのです。
ビスポーク(オーダーメイド)の靴づくりはまず、個々人の異なる足に基づいたラストを制作、もしくは選定することから始まります。すなわち、既製靴は「靴が先にありき」であるのに対し、ビスポークでつくる靴は、「足が先にありき」と言えます。靴は本来、靴のサイズにあわせて履くのではなく、足の形にあわせて履くもの。そのためにビスポークの技術があります。また、私たちつくり手は、使い手の方がどのような靴を、どのような気持ちでつくりたいかを大切にしています。既製靴の靴選びは「あるか、ないか」。そこに、使い手の意思が入り込む余地はありません。ビスポークで靴をつくるということは、つくり手とのコミュニケーションにおいて、主体的に靴づくりに参加することでもあります。気持ちにフィットした靴、そのために顔の見えるビスポークのつくり手がいます。